秋の黒部山旅 黒部ダムから下の廊下~剱岳~東一ノ越周回

一日目 雨の下の廊下

90年前、豊かさ、発展という希望の下、4年の歳月を経て切り開かれた日電歩道。

何かを造る、手に入れるということは何かを失うこと。

こんな言葉が頭をよぎる。

体に打ちつける雨がふとこの事業に従事した人達の汗や涙に感じる。

太陽の眩しさの中では感じなかったであろう思い。

 

二日目 雲切新道から池の平へ

緑の世界から錦秋の世界へ、急坂の登りはこころが先へと急ぐ。

仙人池周辺はまさに紅葉の始まり。ほっこり、おもちゃのような池の平小屋へ向かう。

眼前に迫力の裏剱、眼下には静寂の平の池と素晴らしい景観の地はかつて鉱山でにぎわっていたという。山また山の中の今から少し前の人間の歴史。

眠りにつく前、トイレにとテントから出る。漆黒の闇の中、ポツンと灯る小屋の明かり。その光

                                 は温かく平安に満ちていた。     

三日目 北方稜線をたどり剱岳へ

小窓雪渓を登り終えた時、オレンジ色の世界に包まれる。今日はどんな風景に出会えるのだろう。ドキドキしてくる。

ガスが湧いたり晴れたり、その都度剱の稜線は異なる表情を見せてくれる。

長次郎ノ頭から絶景を楽しみ最後の登り。午後からの雨の予報を気にしつつ、頂上にまだ着きたくないと名残惜しさに何度も来し方を振り返る。

 

別山尾根を下る途中、出会った父と娘のお二人。私と同年代の娘さんの、お父さんに向けるまなざしの優しさに胸が熱くなる。一期一会をかみしめる。

別山乗越から立山を望む。針山地獄剱岳から

極楽浄土の立山三山。立山地獄の地獄谷。

立山曼荼羅の世界をこの目で感じる。

雷鳥沢へは、稜線歩きの大回りで。前回歩いてお気に入りのチングルマの紅葉の道。今日も私達二人きりだ。楽しかった一日を振り返りながらテント場へ向かう。                               

四日目 錦秋の一ノ越から黒部平

夜降り始めた雨は明け方には止みホッとする。

一ノ越から東一ノ越は紅葉真っ盛り。

何度も立ち止まり見とれていると、雨につかまり先を急ぐ。

険しさ厳しさと優しさ、美しき剱立山。刻々と変わる景色の中を歩いていると、人の一生、こころの内、人間社会をなぞっているような気分になる。来年はどの道をたどろうか。早くも妄想が始まる。