二人にとって、それぞれ思い出深い合戦尾根。
それぞれの記憶をたどりながらの山歩き。
「あっ槍ヶ岳!」
過去から今へ気持ちが戻った瞬間。
明日はあのトンガリのてっぺんへ。
気持ちは早くも未来へと移っている。
貧乏沢。何故にこの名がついたのだろう?
ゴロゴロした岩、藪っぽい樹林帯、
まとわりつく虫たち。ため息がでる。
貧しいのは私のこころか?
うだうだした気持ちで下っていると
爽やかな滝が慰めてくれた。
あともう少し、頑張ろう。
明日は北鎌尾根だ。
二日目。夜明けの少し前から歩き始める。
沢を詰め、昨日眺めていた
穂先から延びるぎざぎざの稜線に立つ。
さあ雲上の岩場歩きの始まりだ。
高鳴る気持ちを息切れが抑え、
一歩ずつトンガリに近づいていく。
いくつピークを越えたのだろう。
トンガリの根元にたどり着く。
これから、二つのチムニーを登り頂上だ。
と、手元の岩の上に猿?の糞が。
その上の岩にも、さらに上にも・・・。
「北鎌尾根を登る猿」
美しいフィナーレを思い描いていたのに、
猿の物語が浮かんでくる間抜けな自分に
苦笑する。
三日目の朝、西岳から光り輝く槍ヶ岳の眺望。
昨日歩いた稜線を目で追い、刻々と変わる岩肌の色を息をひそめて見つめる。
二つの鎌尾根と表銀座。
圧倒的なの風景の中の山旅。
その中で一番心に衝動を覚えたのは
出会った人々の、今を満喫するエネルギー。
最後の合戦尾根の下りは、
インドの巡礼地を彷彿させる賑やかさ
いつかまた北鎌尾根を歩く時、私は何を感じ、何を思い出すのだろう。
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