初日、歩きはじめから不穏な天気。霧の中黙々と進む。カベッケが原も素通り。なんか違う。
好きな地を訪れているのに自分の気持ちの低さに戸惑う。
樹林帯の地味な急坂を登り終え木道が現れても花が咲いてないとがっかり。足取りも重い。
すると雲間から水晶岳が!
とたんにテンションが上がる。
今日は雲の平で一晩過ごすのだ。
どんな夢を見るのだろう?ワクワクしてきた。
山賊、お化け、埋蔵金・・・「黒部の山賊」の世界より天気が気になる。夜中、何度か目が覚め、月明かりにホッとする。
夜明けだ。
今日は太郎兵衛平までの長い一日。
先ずは大展望を楽しみに祖父岳。そして黒部川の源流へ。秘境の地も折立まで延びる車道と歩きやすい登山道のおかげでこんなにあっさりと訪れることができる。
一つ山を越えるとまた山が。
背中の荷物が身に堪えるが、夏山縦走は楽しい。
道の続く限りどこまでも歩いていきたい気分。
2年前は悪天候で断念した黒部五郎岳。
今回は、オコジョと虹が迎えてくれた。
次の日は赤木沢。黒部の山奥の楽園。
美しい滝の展示場のよう。
ゆっくりしたい、でも次にあらわれる景色見たさに気が急ってしまう。
大滝を過ぎて最初の右俣へ。
ちょっと野暮っぽい沢になり落ち着く。
小滝も続きうれしい。
最後の滝を登り源頭部へ。
稜線への詰めに入った途端、今までの青空が一転、霧の世界へ。
ハイ松帯をよけながら目星をつけた地点を目指す。
昨日歩いた登山道にでる。霧の中の道は歩いたばかりなのに覚えのない道に感じる。
合っているのに不安になる。
こんな時、「黒部の山賊」が浮かんでくる。
時折、霧が去り赤木平が見渡せる。
雲の平とその周りの山々。「黒部の山賊」を初めて読んだ時から憧れの地であり続けている。
美しい自然はもちろん、人里離れた山奥での人間と山との逸話は読む毎にどんどん惹きこまれていく。
そして、当たり前のように感じている登山道や山小屋の誕生までの苦難。
20代のころ出会った一冊の本は今なお私の心を強く打つ。
コメントをお書きください